2003.02.17

Tea Break -社長ブログ-

名もない洋食屋と音楽会

(17,Feb,2003)

これは、ちょうど10年前に研究開発室を創設した年のこと。新入社員を紹介する社内報を作るにあたって、熱血漢のT君が私にコラムを書いてほしいと頼んできた時に、私が考えたテーマでした。コラムの題名は「fermata(フェルマータ)」。その時の文章は失われてしまったのですが、うろ覚えの物語に少しアレンジして、恥ずかしながらここに再現してみたいと思います。


とある田舎町に作曲家の名前を冠した音楽堂が完成し、柿落としにオーケストラがやってくるという。名曲コンサートで、メインの曲はブラームスが十数年の歳月をかけて完成したという交響曲第1番。早速、音楽好きの親しい友に声をかけ、一緒に聴きに行くことにした。

演奏が終わってみると、期待以上の素晴らしい出来映えに、会場を埋め尽くす人々の顔は紅潮し、口々についてでる感想も好意的なものが多かったようだ。われわれもお互いに「ホルンのソロが柔らかい響きで、気持ち良かったね。」とか「いやぁ、低弦楽器がよく鳴っていて、アンサンブルに厚みが出て迫力があったなぁ。」などと各々薀蓄を傾けあった…。

しかし音楽堂を一歩出ると、ただひたすらいい音楽に浸った心地よさだけがからだの中をかけめぐった。

その帰り途、少しおなかが空いたので一軒の洋食屋に立ち寄り、それぞれビーフシチューとハンガリーの名物料理グヤーシュを注文する。「寒い時は、煮込み料理に限るねぇ。」と友が言い、私もスプーンを口に運びながら、言葉を出せずに相槌を打つ。

すると友は「君がまた、『アク取りがきちんと出来ていて、加熱の調整がうまくいっている』とか『パプリカの使い方がポイントだ』などと言い始めて、ゆっくり味わえないんじゃないかと気が気でなかったよ。」と悪態をつく。

私は苦笑しながらも、「そうだよなぁ、おいしさは理屈じゃないよな。」と話を合わせる。でも心の中では「そのおいしさを生み出すために、料理人は見えない所で汗と涙の緻密な計算をしてるんだぜ。」と嘯く。

「さぁて、からだも心も温まったことだし、もう一軒行くか!」と威勢の良い友の声に、「よっしゃー!」と握りこぶしに力が入る私。南東の空にはオリオンのななめに並んだ三ツ星が清々しく輝いていた。


心地よい音楽もおいしい料理も、全体と個の絶妙なバランスで成り立っている。誰かがメロディを奏でている時は、他の奏者がリズムを刻んでしっかりとその旋律を支えている。ひとつの曲の中で、各々の役割が順番に切り替わって見事な調和を見せる。「このもも肉がおいしい。」「スープがひときわ引立っている。」…それもまさしくその通りだけれど、全体が調和しているからおいしい。

翻って、私たちの会社ですが、社員一人ひとりがその持てる個性や才能を存分に発揮しながらも、会社として大きな一つの方向で調和している。そんな会社を目指したい。さあ、一人ひとりが何をしなければならないかを、ゆっくりとfermata(小休止)して考えてみましょう!

拙い文章で恐縮ですが、確かこのような内容だったと思います。
今もこういった考えに大きな変わりはなく、次のお話「音楽と料理の相似形」へと移っていきます。

今日はこの辺りでpausa…